今回は、社会学者の梁・永山聡子さんが主催するトークイベント「聡子の部屋 いま会いたい人たち」へ。女性や性的マイノリティ、外国人の権利問題、原発、基地、オリンピック、戦争責任など、さまざまな問題を抱える日本で、どのように社会と向き合っていくかゲストと語り合うイベントです。
テーマは「若者たちのフェミニズム運動のいま」。ゲストは、NPO法人アジア女性資料センター事務局の濱田すみれさんです。聡子さんと濱田さんは約10年にわたり、同センターで一緒に活動を続けてきました。イベントでは、聡子さんが聞き手となり、濱田さんのこれまでの経験、今後の展望などについてお話いただきました。
同世代で学び合う場がほしい。2010年にユースグループを立ち上げた理由
お二人が所属するアジア女性資料センターは、暴力のない公正で持続可能な社会に向けて、女性たちのエンパワメントのために行動するフェミニスト団体。
ジェンダー平等に関するセミナーやワークショップの企画運営、機関誌『女たちの21世紀』の発行(年4回)、性的指向や人種などへの差別に声をあげる「ウィメンズマーチ東京」の実行窓口、ユースグループのコーディネートなどを行っています。
まずは、私が2010年に立ち上げた10〜30代が集まる「アジア女性資料センター ユースグループ」について紹介します。なんでこのグループを作ったかというと、当時、同世代のアクティビストに出会えずに、とても寂しい思いをしていたから。この時は25歳で、周りには40代以上の人たちが多かったんです。
若い世代が上の世代から学ぶだけじゃなくて、同世代で学び合う場がほしかった。フェミの先輩たちに囲まれていると、ただ教えてもらう一方通行な感じがありました。「ジェンダー」「フェミニズム」と聞くと、学問的で近寄りがたいというイメージが今よりも強かったんですよね。でも私はアジア女性資料センターに入って、とても身近な問題だと思っていた。運動は一人ではできないので、フェミニズムについて語り合って行動し合う仲間を作りたいと思ったのがきっかけでした。
そんなユースグループに私が入ったきっかけは、2012年に行われた「女性に対する暴力に反対するファッションショー」。大学院の友だちに「ビデオ係がいないから頼む」って言われて行ったんですが、そこで衝撃だったのがクオリティの高さでした。
ファッションショーをやって何がよかったかというと、全員が手を動かしたことですね。おむつを縫っておむつドレスを作ったり、当日売るパウンドケーキを70個くらい焼いたりして、とにかく大変だった!
運動って、すごく地味な作業が多いんですよ。地道にメールを書くとか、チラシを作るとか、会場を予約するとかスピーカーに連絡するとかね。今の若者のフェミニズム運動を見ていると、みんなあんまり手を動かさない気がする。いまは「フェミブーム」ですけど、改めて、私たちが活動してきた時代は氷河期だったと思います。
2000年代のジェンダーバックラッシュがすごく影響していた時期なんじゃないかな。「フェミニストじゃないけどジェンダーはやっています」と自己紹介する人がいまより多くいたと思います。
でもいまはTwitterなどのプロフィール欄に「フェミニスト」と書いている人は増えていますよね。バックラッシュが来た時に、果たして彼女らはフェミニストだと言い続けるのか。
言えるように私たちががんばっていかないといけないんですけどね。
誰のためでもなく、私のために歩くウィメンズマーチ
アジア女性資料センターが窓口となって、毎年3月8日の国際女性デーに行われる「ウィメンズマーチ東京」。国際女性デーとは、女性たちの社会的・文化的な功績を祝い、ジェンダー平等を訴える日のことです。この日は世界中でさまざまなアクションが行われます。
『3月8日「ウィメンズ・マーチ東京」を呼びかけて』
https://webronza.asahi.com/culture/articles/2017032100007.html
2020年2月27日現在、2020年3月8日の開催は延期になりました。
ウィメンズマーチに参加する理由はさまざまです。ジェンダー差別に反対する人なら誰でもOKだし、ジェンダーに関係すると思われていないような社会問題に取り組む人も参加しています。たとえば在日朝鮮人への差別問題とか、戦争責任の問題とか、過去から現在まで続く問題がたくさんあります。それらを無視せずにきちんと訴えていくこと。
それから大事なのは、参加者はお客さんじゃないということ。自分のために歩いてほしいと言っています。私たちが行うのは、コースを決めて、デモ申請して、安全確保する誘導の人を配置すること。あとは皆さんで自主的にやってもらいます。音楽が聞こえなかったら自分で歌うとかね。
ウィメンズマーチの実行委員会では、若い世代と組むことが多いですよね。すみれちゃんは少し上の年代になって、これまでの運動との違いはどう感じる?
過去に、初参加の若いメンバーから「たくさんの人に来てもらわないと意味がない」という意見が出たことがありました。その年の3月8日は平日だったので「参加者が増えるように週末に開催したほうがいい。メディアにもたくさん取り上げてもらいたい」という提案だったと思います。でも私は、3月8日当日に国際連帯をすることが重要だと考えて始めたので、この日以外はありえないと思っています。たとえば、関連イベントを「国際女性デーウィーク」としてやるのはいいんですけどね。
それにメディア受けは重要じゃなくて、私は自分のために歩きたかった。この日に同じ思いの人たちと歩くことが大事で、なんなら私一人でも歩きたいくらい。そして、今のメディアはやっぱり男性中心的な組織の中で意思決定されているものだと思うんです。私たちがそれに合わせて動かないといけなくなってしまうという不安もありました。
若い人たちって物心ついたときからSNSがあるから、それをきっかけに運動に参加する人もいますよね。私もSNSを使いますけど、あくまで発信用で、そこで対話してわかりあおうとするのは難しいと思っています。この人はどういう表情で私の話を聞いているのかとか、私は直接会わないと信頼できないんです。
運動は一人じゃできないものだし、特にフェミニズム運動ってすごく叩かれるから、信頼できる仲間がいないと端から潰されていく。そういう時にSNS以外でも、信頼関係を構築していないと難しいと思います。
私たちの世代の運動は、手を動かし、頭を使い、時には大ゲンカをし、時には酒を飲み、記憶をなくす……というのを繰り返してきた。まぁ酒の部分はどうでもいいんだけど(笑)。
話し合って決めて実行することを大事にしてきたよね。SNSがない時代だったし、基本的にFACE-TO-FACEだった。
あと、ウィメンズマーチ実行委員会のメンバー募集をかけると結構たくさん集まってくれるんですけど、準備を始めてみて地味な作業の連続であることに気づくと来なくなっちゃう人もいるんです。それでも残る人とは、毎年仲良くなっていきますね。いなくなる人は、社会運動に華やかなイメージを持っているのかもしれない。
ルールを持つのは権力側。社会を変える側がちゃんと勉強していかないといけない
ウィメンズマーチは警察にデモ申請をしないといけないんですが、申請書を出すまでが毎回すごく大変なんです。今回は私より年下の女性たち4人が最初のデモ申請に行ったんですけど、なかなか受け付けてもらえませんでした。憲法でデモする権利は認められているのに。
権力はルールを持っているほうなんですよね。向こうは都合が悪ければ、自分たちでルールを変えることもできる。
フェミニストに限らず、社会を変える側がその仕組みを勉強していかないといけないんですよ。ホモソーシャルな社会の中において、結局はフェミニストが一番理詰めだと思います。誰もが平等であることを目指して、絶対に原則を守るから。ホモソーシャルの世界は、最終的にはなし崩しみたいに物事を決めるから、それと闘うのはすごく大変なんですよ。
でもやっぱりルールを持っている側から何か言われたら、びびっちゃうんですよね。権力がどういうものなのかを理解していないと、戸惑ってしまう。それは、実践を積まないとなかなか難しいですよね。
私、この前韓国で行われた「北京+25 東アジア女性フォーラム」に参加してきてきたんですけど、やっぱり韓国のフェミニストの層がすごく厚かったんです。「韓国フェミが熱い!」みたいなことは日本でもメディアに取り上げられがちですけど、私が印象的だったのは、若い人とベテランのフェミニストが協力し合っていたこと。若いフェミニストたちができることはちゃんと自主的に動いて、ちょっと間違えたり、不安だったりしたらすぐにベテランフェミニストが出てきて正しい情報を伝えていたんです。連携ができていてすごかった。このあたり、日本の課題だと感じています。特に国際的なところに行く時に、しっかり議論の文脈を追えてないと難しいので、フォローは必要だし、多世代で連携できる環境をつくっていきたいですね。
「北京+25 東アジア女性フォーラム」は、韓国、中国、日本から、ジェンダー平等に取り組むNGO団体が参加。1995年の第4回世界女性会議(北京会議)で採択された、女性の権利実現の推進をめざす「北京宣言」「行動綱領」をもとに、東アジア地域における実施状況と新たな課題を話し合いました。
新しい世代の運動家を求めているのに、若い人を育てられていないという現実はありますね。若者たちをどうやってサポートするかは、もう私たちの課題なんだと思う。
韓国の同世代は、今、橋渡しをしているんですよね。若い世代のことはわからなくても、一緒に活動してきた上の世代のことはわかるから、次世代を繋ぐ橋になっている。それこそがいま、私たちに一番求められているポジションなんだろうけど、正直すごく大変なことです。権威側に立つほうが簡単なんですよ。だからみんなフェミニストなのに権威主義者になってしまうのかもしれない。
いまの日本の「フェミニズムブーム」には権力へのアクションが欠けている
濱田さんは、これまでのフェミニズム運動から学んだこととして6つのポイントを挙げました。
1) フェミ友、大事!
2) 植民地主義、軍事主義、戦争、平和の問題はフェミニストが取り組むべき重要課題
3) 歴史から学ぶ
4) 世界のフェミニズム運動から学ぶ
5) フェミニストは「怖い」「ダサい」…だからなに?
6) フェミニストの人生は「茨の道」、でも…
フェミ友の大切さは強調したいです。ジェンダー差別や性暴力が根強く残るこの社会を生き抜くには、やっぱり同じビジョンを描く仲間と話し合ったり、励まし合ったりすることが必要だと感じています。運動にはいろんな思いを持っている人が集まります。思いが強ければ強いほど、ぶつかり合うことも多い。
私は同じビジョンを共有する仲間がいるから、これまでやってこれたと思っています。一人じゃできないのがアクティビズムだから、信頼できる仲間を見つけることが大事だし、彼女たちが困っている時は支えたいと思っています。腹を割って話せる仲間と出会えたことが、なによりのモチベーションだと感じます。
それから植民地主義、軍事主義、戦争、平和の問題について。
フェミニストは人権侵害や暴力に反対する人たちです。なので、最大の人権侵害であり、暴力のシステムである戦争にはもちろん反対するし、植民地主義・軍事主義の問題も取り組むべきと思っています。
現代の性暴力も大事なんだけど、その背後にある問題が重要だよね。いまって戦争責任についてどう向き合うべきか悶々としている感じだと思う。「自分たちで学んでいこう」とかそういう温度感。でも昔は、そうじゃなかった。うるさく声をあげて政府に突きつけるっていう勢いがあったんです。いまの日本のフェミニストが、植民地主義・軍事主義のことをまったく考えていないとは言わないけれど、やっぱり権力に対するアクションが著しく欠けていると思う。
「戦争反対」ってみんな軽く言えるんだけど、なんで反対するのかっていうことを考えたほうがいいです。答えは、人権侵害だからだし、暴力に反対するべきだからですよね。反対するためには、日本がこれまでの戦争でどんなことをしてきたのかを知る必要があります。
だから、「歴史から学ぶ」ことって重要です。いまの私たちが生きているこの社会は、もちろん歴史とつながっています。男性中心の社会構造の中では、女性たちの運動がほとんど記録に残されてきませんでした。でも私たちは上の世代から直接学ぶことができた。そういう環境にいられたことはラッキーだったと思うし、彼女たちから学んだことは一生の宝物です。もちろん今でも学び続けています。
同時に、「世界のフェミニズム運動から学ぶ」こともたくさんあると思っています。マスメディアが取り上げないこともたくさんあるんですけど、いろんな国でフェミニズム運動があるので、それらに注目していくことはとても大事です。
フェミニストは「怖い」「ダサい」のイメージを覆す必要はない
あと、フェミニストは「怖い」「ダサい」って言われると、いまの私は「だからなに?」って思います。「フェミニストのイメージ」を変えていこうっていう呼びかけがありますけど、怖くてダサくて何か問題ありますか? 性差別主義に怒っているのだから「怖い」でしょう。それに、見た目で評価されることを拒否してきたフェミニズムですから、「ダサいかどうか」は問題ではありません。
でもね、20代の頃の私たちは、「フェミニストのイメージを変えたいよね」って言ってたの。それで、いろんな活動をする中で私が気付いたのは、「フェミニストが優しすぎる」ってこと。もうちょっときつくなってもいいんじゃないかと思ってるんですけど、どうやら「フェミニストのイメージ」がそうじゃないということは、よっぽどフェミニズムを嫌いな人が「怖い」とか「ダサい」とか勝手に言ってるだけなんだなと思います。
フェミニストの人生は「茨の道」。これまでの「当たり前」をひっくり返すのが、フェミニストの思想ですよね。だから怖いし、嫌われる存在だと思う。攻撃もされるし、バカにもされるし、無視もされます。
でもやり続けるのは、人権が守られる暴力のない社会を実現するため。そういう社会が必要だと強く思っています。
運動とアカデミズム、そして労働の問題
私は女性学やジェンダーを大学で勉強したわけじゃないんです。ファッションデザインの学校に行っていて、その頃は「フェミニズムってなんだろう?」って感じ。そのあと、アジア女性資料センターで働いて、初めてフェミニストたちに出会って、一緒に活動していきたいって思ったんです。
でも、その時から活動家アイデンティティを持ったフェミニストが少ないと感じていたんですよね。もちろん理論的に学ぶことも大事だから、勉強した上で、活動家になっていくんだと思うけど、私は私みたいにフェミニズムを大学で勉強してなくても、研究者と組みながら活動できる人が増えたらいいなって思っています。
私がアジア女性資料センターやふぇみゼミで活動しながら、大学に所属する理由は、朝鮮植民地期の女性たちの歴史を見て「両方やってみよう」って決めたから。運動は実践と理論を両方やることが大事だと思って、両立できないことはないなと思ったんですよね。
在日朝鮮人としての運動をやるようになって、過去の先輩たちを見ているとやっぱり両方あるし、両方ともうまくいかないこともあった。いまの日本のフェミニズムがうまく進んでいないと思うのは、運動とアカデミズムがすごく離れてしまっている点かなと感じます。どっちかを嫌う人もいて、それが残念だと思う。どっちかを嫌う問題じゃないから、これからうまくいってほしいですね。
それは、やっぱり労働環境の問題が大きいと思う。自由に活動できるような時間やお金や環境が整ってないじゃないですか。企業に勤めている人が多い中で、コストを割けない現実があるし、日本社会が運動に対して理解がない。社会運動にお金が集まるような仕組みもないしね。
そういう悩みはよく聞きます。運動したいけどお金がないし、じゃあ学者になるかといっても今は学者もなかなか食べていけない。
なんとか私たちはフェミニズムの氷河期をサバイブして、いまここにいるけれど、まだまだ課題もあります。
これからも新しい運動を作っていきたいと思うので、若い方々は一緒に頑張っていきましょう。
今日は、私がいろいろ話しましたけど、ちがう意見もあるかもしれません。これからの運動がどうなるのかは、皆さんにかかっています。フェミニストの仕事はまだまだたくさんあって、前と比べて少しは良くなったかもしれないけれど、後退していることもある。なので、これからも仲間と一緒に取り組んでいかないといけないと思っています。
金言がたくさん登場したトークでしたが、特に印象的だったのは、濱田さんが何度も「運動は一人ではできない」と言っていたこと。私自身、運動をきっかけにさまざまな立場や考えの人と出会って、泣きたくなったり、キレそうになったり、複雑な気持ちになったりするけど、そんな感情を共有できる仲間がいることが心の支えになっています。
「早く行きたければ、ひとりで行け。遠くへ行きたければ、みんなで行け」というアフリカのことわざがあります。
男性優位的な社会構造をひっくり返そうとしている私たちの活動は、すごく大規模で広範囲に影響を及ぼすもの。だからこそ、それぞれの立場や経験、スキルを生かした運動が必要で、一人ひとりが繋がることが大事なんだと感じます。何より、ジェンダー平等の社会が実現する時には、たくさんの仲間と笑っていたいですよね!
▼3月8日(日)開催を予定しておたウィメンズマーチ東京2020は、「延期」となりました。詳細は公式サイトをご確認ください。
ウィメンズマーチ東京2020「延期」のお知らせ
▼今回レポートした連続トークイベント「聡子の部屋 いま会いたい人たち」、第3回は3月6日です。
『日本のナショナリズム/排外主義をめぐって』(ゲスト:明戸隆浩さん)
https://noisie.jp/schedule/484/
会場はこちら。
Readin’Writin’ TAWARAMACHI BOOK STORE
▼「聡子の部屋 いま会いたい人たち」第4回は4月17日です。
第4回「現代思想2020年3月臨時増刊号」刊行記念
『インターセクショナリティに開かれた場のために――ゆる・ふぇみカフェとふぇみ・ゼミの実践から』(熱田敬子さん、河庚希さん)
▼聡子さんがお話される今月のイベント
『「日の丸・君が代」の強制を跳ね返す 3.7 神奈川集会とデモ』
https://noisie.jp/schedule/600/