最近のフェムテックの躍進は、目をみはるものがある。
フェムテックとは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)からなる造語で、生理や妊娠出産、セックスなどに関する健康課題をテクノロジーで解決するサービスやプロダクトをさす。
タブー視されていた生理など性にまつわる話題も活発に議論されるようになった。今、性や生理がある人の健康はまさにホットトピックだ。
私自身、日々アップデートされていく情報を追いつつ、その目覚ましい技術の進歩に驚きや感動を覚えている一人だ。調べれば調べるほど、生理不順やPMSを改善したり、避妊や不妊治療などの選択肢は増えていることを実感している。
しかし、幼少期から極貧家庭で育ち、現在もワーキングプアの私が感じるのは、素直な喜びだけではない。
一番適切なのは”疎外感”だと思う。後は喪失感や虚無感、焦燥感とでも言おうか。
増えていく選択肢、最新の技術、プロダクトを見るたびに感じるのは、女性の健康は嗜好品であり贅沢品である、という現実だ。
持たざる者は生きづらさを改善する権利が無いように思われ、なんとも言えない疎外感を抱いている。
11歳で初潮を迎えてからというもの、私はひどいPMSや生理痛に悩まされ続けている。現在25歳なのでその日々は14年におよび、これからも更新されていくのだろうと思うと目眩がする。
もちろん何度か婦人科に足を運び、検査もしているが、異常は無かった。
生理の1週間前、ひどいときは10日前から頭痛、肌荒れ、精神不安定、下腹部痛、卵巣痛、便秘、下痢、だるさなどの症状が現れる。
生理がやってくると、いつも恥骨がきしむように痛く、立っていられなくなる。
そして酷い頭痛や、吐き気、嘔吐、全身の倦怠感、冷えなどの症状が一斉に現れる。
市販の鎮痛剤を容量の倍飲んでも効かず、婦人科で処方してもらった強めの鎮痛剤でなんとか1時間ほどで痛みは和らぐ。
精神不安定も深刻で、どうしようもなくイライラして自分が自分ではなくなる感覚を覚える。母や姉は「仕方ない」「お白湯を飲みなさい」しか言わず、わたしも”そういうもの”だと思って生きてきた。大学を卒業するまで、お金でそのつらさを改善する選択肢があることも知らなかった。
とにかく毎月、仕事に支障が出ないか気が気ではない。
生理休暇の存在は認知されておらず、たとえ知っていたとしても私は利用できない。男性の上司にはなかなか言い出しにくいし、周囲にズル休みだと思われかねない懸念がある。また、生理休暇が有給か無給かは各企業の就業規則によって異なる。無給であれば当然、休めばそれだけ給料は減るので、貧しい人は無理にでも働かざるを得ないだろう。私も毎月体を引きずって仕事をしている。
以前、大事な取材のアシスタントをしたとき、話を聞きながら気を失いそうになった。
生理痛の時は顔面蒼白になるものの、それ以外は目立った外見の変化があるわけでもなく、席を譲ってもらうことは無いし優先席に座るのもそれはそれではばかられる。
ただでさえ、妊婦にも席を譲らないような日本社会だ。しんどそうにしている人がいてもまず席を譲られるなんてことはない。
無料の生理日予測アプリで、いつも生理が来る日を予測し、その1週間前から漢方内科で処方された漢方薬を飲み始める。また、鎮痛剤にナプキン、真夏でもカイロは鞄の中に必ず入れる。
それでも、それでも、だ。やはり予測は当たらないこともある。白湯を飲み、緩めの服を着て、鎮痛剤を飲んで。できるだけの努力はしているつもりだが、いまだに症状は改善しない。
学生時代、生理が2年間来なかったことがある。
婦人科にいくと、「子宮がピンポン玉ほどに収縮している」と言われた。注射を打つも、1回は生理がくるがそのあとは来ないことを繰り返した。
ピルも一度は飲んだが、1シート3~4,000円もした。当時苦学生だった私はその額が払えず、結局再び生理が来るのに2年かかったというわけだ。
生理痛、生理不順、PMSに悩まされてきた私だが、快適さはお金によってしか手に入らない、と、いつも感じさせられる。
ナプキンはパッケージや素材なんてどうでもよくて、1円でも安く、多く入っているものを選ぶ。月経カップは初期投資しなければならず失敗が怖いので購入できない。ただでさえ検査費や処方される漢方、その他鎮痛剤やナプキン代などが毎月の負担になっているのに、プラスアルファーのサプリやグッズに手を出す余裕などない。
最新のフェムテックを追い、新しい商品に目を惹かれては、値段を見てそっとページを閉じる、そんな日々である。
サニタリーショーツはしまむらなどで580円のものを買うのが限界だし(それでも高く感じる)、ピルなども手を出せない。
とにかくスタイリッシュで値の張るラインナップを見ながら、お金で快適さを買う余剰がある人たちに向けての商品だという事実を突きつけられた気持ちになる。
また、消費税増税の際、生理用品は軽減税率の対象にならなかった。月経のある人のみ、毎月発生する負担。一時、「生理用品も軽減税率の対象に」そんな声が多く上がったが、今は聞こえなくなった。
当時私も危機感は抱いたものの半ば諦めていたので、いま振り返り、深く反省している。
イギリスでは、生理用品への付加価値税が撤廃されることが決まっている。
毎月の出血にあてがう必需品に対して、税の負担がなくなる、または軽減される道が示されたように思う。
日本でもいま一度、この問題について考え直し、声をあげる必要があるのではないだろうか。
私はまだ当事者では無いが、中絶するにしても出産にするにしても、妊娠もまたお金がかかる。不妊治療など現在は保険対象外で、目がくらむような金額がかかる。3歳の息子を持つ友人が、「子どもは嗜好品なんだよ」と言っていた。経済的に余裕のある友人でさえ、不妊治療にかかる金額は治療を継続するか悩まされるという。
お金さえあればあらゆる選択肢が手に入る。
ピルやサプリ、漢方、ハーブティーを飲み、月経カップなどのグッズを試し、1枚5000円以上する吸水ショーツをはくことができる。
体に合う、合わない、症状が改善する、されない。そんな悩みは、また次のフェーズだと感じている。それを悩めるのは、“試せる”、“お金がある”からで、貧困にあえぐ人たちはその権利さえない。
もちろん、憂鬱な生理の日に、かわいらしいパッケージのものを使えれば気分はあがるだろう。
しかし、私が求めるのはそこではない。
その前にとにかく1円でも安く、快適さを手に入れたい。
繰り返しになるが、現状で生理にまつわる健康は、嗜好品であり贅沢品だ。
生理の健康に限らず、お金で買える快適さは世に溢れている。逆に言えば、お金が無ければ向き合い続けなければならない痛みがあるということだ。
その中でも、生理痛やPMSに悩まされる期間は月の半分にもおよび、その期間は人生の約半分を占める。それを改善する権利が、お金でしか買えない現実への違和感を、私は強く抱いている。
フェムテックが大衆の関心の対象となるにつれ、アクセスできる人とできない人の対比ははっきりしていく。私からすれば選べない選択肢が増えるだけで、身に起きる変化はない。
しかし、お金をかけてフェムテックを駆使し、体調管理をできる人が評価されるとしたら。
お金がなく選択肢を持てない人は、仕事に支障をきたしても、痛みや不快さを押し込めながら働き続けるしかないとしたら。
お金で買える快適さは分断を加速させる引き金にもなるのではないかと、私は問いかけたい。
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Photo by Gabrielle R on Unsplash