私たちは女性蔑視や外見至上主義に加担していた
飯田光穂(以下、飯田):ずっと、wezzyの「中の人」がどのような思いで運営されているのか興味津々でした。まずは編集長である矢田さんご自身のことをお伺いしたいです。
wezzyにはフェミニズム、具体的には性差別、権威主義、排外主義、自己責任論などに抗う視点を強く感じます。どのような経験、きっかけから形成されたものですか?
矢田佐和子(以下、矢田):わたしは大学4年生のときに雑誌「サイゾー」にアルバイトとして入りました。当時の自分がフェミニズムを知っていたかというと、そうではなかったです。その後、web媒体の編集に携わり、わたしは女性蔑視的な記事を量産していたと今振り返って思います。
飯田:いわば、女性蔑視に加担していた、ともいえる時期があったんですね。
矢田:無自覚なミソジニー(女性嫌悪、女性蔑視)がありました。でも2013年に「messy(女性に向けたアダルト情報を扱うメディア)」を立ち上げることになり、女性がどんなアダルト情報を読みたいか?と考えたら、女性が性的客体ではなく性的主体になっているコンテンツが必須だろう、と。
そこで、否応なしにフェミニズムと向き合うことになりました。
当時、たとえば「女子力」という言葉もまだ広く問題視されていない時期だったと思います。女性向けのメディアを立ち上げるにあたって、「女性向け」とされている雑誌やwebサイトをいろいろ読みましたが、女性が女性に向けて「女子は男子にこうしてほしい生き物」とか「男は解決脳、女は共感脳」と発信しているものが多く、違和感を覚えたんですね。
飯田:矢田さんは違和感だったんですね。私は「女性向け」とされているジェンダーロール押しつけコンテンツを見るたびに「(異性愛者の)女の子って本当こういうの好きだよね~」と知ったかぶりで、女性を蔑視していました。いま思うと、異性愛中心社会の周縁にいる卑屈と傲慢です。
矢田:でもジェンダーロール押しつけコンテンツは、しんどいですよね。昔から「男はこう、女はこう」って価値観には馴染めなかったんです。恋愛観にしても、文化系や草食系とされる男子が好みだったので、ホモソーシャルに順応する人々が彼らを「男らしくない」と否定するのがすごくイヤで…。
それもあって、「女性向けメディア」を作るとなったときに、「女らしさ」にこだわりたくないなと。「女性目線」とか「女性向け」って、実態やニーズと乖離していることが多いじゃないですか。女性向けなのに「女らしさ」を強調したくないという、アンビバレンツなんですけど。
飯田:そのアンビバレンツさ、私にもあります。女性へ向けるメッセージに、”女性らしさ”の呪縛をかけたくない。自分にもまだ呪縛が残っているので、できるだけ意識したいな、と。
矢田:また、27歳で出産をしたことは大きかったです。子供がいるから遅くとも18時には退社したい。夜と休日は子供と過ごす時間です。労働時間が短くなっても今の仕事をがんばりたいって思った時に、女性の労働問題が自分ごとになりました。出産を機にフェミニズムが自分ごとになる人って多いと思うんです。
飯田さんがフェミニズムを意識したきっかけは何でしたか。
飯田:私は20代を美容皮膚科の看護師として働いて、ルッキズム(外見至上主義)に違和感を抱いたことがきっかけです。
容姿へのコンプレックスが強かったことの裏返しで、努力やお金を払えばコンプレックスは減らすことができる、やらないで苦しむのは損だ、と思っていました。だからルッキズムを煽る営業にまったく罪悪感を感じてなくて、むしろ嬉々として「私は先に解決したから教えてあげなきゃ」と…
矢田:あー!!押しつけがましいやつ!(笑)
でも当時は、よかれと思ってやっていたんですよね。なんで変わったんですか?なにかきっかけがあった?
飯田:自分と同じように多くの女性が容姿のコンプレックスに苦しんでいるのは、これまでずっと見てきた雑誌やテレビ、広告の影響もあると気づいたら、マッチポンプに加担しているだけだ、と目が覚めました。私はルッキズムの呪いを解消したつもりでいたのに、今度は呪いをかける側になって、大勢の自尊心を加害していたと自覚した。そこから変わりはじめたと思います。気づくまでは、この社会でどうにかうまくやっていく方法しか考えていなかったんですよね。30手前まで、ずっと。
「女性だから常に被害者、ではないですよね」
矢田:わたしも学生時代は「女だけど差別されてません」って言っちゃうタイプでした。
幸運なことに女性ゆえの差別を感じる機会がなかったからです。
教育を与えられ、痴漢などの性被害も受けず、性的指向に悩むこともなく、お酌も強要されず、会社の服装規定やお茶汲みもなく。ファッションもメイクも、女性であることの楽しさを享受してきていて、それ自体は今も変わっていないんです。自分はとても恵まれていると思います。
逆に性的消費を考える局面では、性的消費イコール男性から女性へのものとして扱われがちだけれど、わたしは自分もアイドルや女優さんを性的消費してきたと感じます。可愛い、エロい、AVで抜くみたいな行為、とかですね。
女性に対して、暴力的なまなざしをぶつけていたと、自分を振り返って思います。
飯田:私のなかにも他者を性的に消費するまなざしはあります。
他者への性的消費も加害性も、決して自分の外側のものではない。自覚的ではありたいと思っていますが。
矢田:自分の加害性に自覚的でありたいと、わたしも思います。偏見やミソジニー、暴力性は自分の中にもあるんです。わたしは女性だけれど、女性だから常に被害者、ではないですよね。
自分を女性の味方だとも思えないんです、「女好きの女ぎらい」みたいなところがあったので。優秀な同級生女子が「働きたくないから結婚したい」ということに反感を覚えていたし、男性に「稼いでほしい、わたしを守ってほしい」と要求する女性に対しても、なんで自分のことなのに自分でやろうとしないの?って嫌悪感がありました。
飯田:あー、ありました。私は子供のころ「将来の夢はお嫁さん」と堂々と言える友達に嫌悪感を持っていました。今となっては、他人の勝手なんですけど。
矢田:反省はたくさんありますね。小学生の時、いじめに加担したこともあるし、ひどいことなのですが友人の恋人のルーツを嘲笑したこともありました。わたしは暴力的なレイシストでセクシストで、だから自分のことを知る人から「あんな差別主義者が、綺麗事を言うようなwebサイトをやっているなんて最低だ」と言われてもおかしくないと思っています。あと恋愛関係でひどい行いをしたことは何度もありますし、人の悪口はめちゃくちゃ言いますし、家ではごろごろ寝転んでゲームしているし、怠惰なタイプです。自分には落ち度がいっぱいあるから、叩かれればホコリがめちゃくちゃ出るんです。
飯田:私も本っ当に、叩かれればホコリだらけです。
矢田:自分はそんなふうだけど、だからといって、叩き潰されたくはないですよね。他者に対しても、失敗や失言をそのひとのすべての人格否定に結びつけることはしたくない。そもそも誰かを全否定するのも全肯定するのもちがうと思うんですね。
飯田:全肯定は依存ですね。
矢田:依存ですね。全部を委ねていい相手なんていませんから、誰かを見るときにこの部分は共感するけどこの部分は共感しない、って考え方にしたほうがいいと思うんです。インターネット上でかわされる議論って、主義主張によって「敵」「味方」を一方的に認定し・されますが、敵も味方もない。
飯田:この人の意見はいつも全て正しい、全て吸収したいっていうのは盲信だし危険ですよね。自分の頭で考えなくなる。
矢田:きっと簡単に騙されたり、洗脳されたりしちゃうから怖いですね。
法律もひとつの尺度だから、すべてを救わない
飯田:今のお話はwezzyのキャッチコピー(「現代を思案する正解のないWEBマガジン)に通じるものがあるように思いました。「思案する」のところが好きです。
矢田:このキャッチコピー、社内では「ぼんやりしている」「広告営業かけづらい」「読者のペルソナをくれ」って散々言われるんですよ(苦笑)。だから変えなきゃダメかなと思っていたのですが、好きだと言ってもらえてうれしいです。
このキャッチコピーは、自分たちには「正解」を提示できないから、という思いを込めています。正しさとか真実とか、わからないですよね。尺度にもよります。
法律もひとつの尺度だから、法律で救われないケースも多々あるわけで。だからこそ、本来もっとアップデートされていくべきだと思うし。
飯田:「法律でこう決まっているから」は思考停止だなぁと思います。なんのための、誰のための法律か、と。
矢田:そうなんです。だから一緒に考え続けましょうって、毎日どの記事でも言うメディアにしたかった。考え続ける材料になればいいな、と。誰が正解を決めるわけでもなく、誰もジャッジできないようなことはたくさんありますよね。原稿に「~すべきだ」と書かれていても、できる限り別の言葉に言い換えるように意識しています。もちろん原稿は著者さんのものですし、全部の記事で同じようにできているわけではないですが。
飯田:wezzy は 話題の広さが個性的ですよね。
政治から芸能まで幅広いし、視点が独自だから同じ話題を取り上げていても他と内容が違う。 初めからこの方針ですか?
矢田:フェミニズムをベースに芸能などの盛り上がっている時事ネタをフックにして政治や社会の問題に広げていくやり方は、最初から決めていました。そうしたら社会問題に興味のない人にも読まれるかな、と。芸能人の名前を利用していると言われたらそうなのですが。
飯田:まさに、矢田さんとサイゾーさんの強みの合体!
矢田:いや、wezzyはわたし一人で制作しているわけではないですから…幅広いジャンルを扱えるのは、編集部のみんなが勉強して疑問や違和感を記事にしようと取り組んでいるからですし、多くのライターさんが協力してくださっているからですね。むしろ、わたしは今、自分で記事をガツガツ作るより、若い編集者を育成しマネジメントして、サイトの責任を負う立場です。彼らの働きやすい環境づくり、メンタル面含め健康への配慮、モチベーションの鼓舞など、やるべきことはたくさんあって、全然できてないですけど、上長としてちゃんとやっていかないといけないですよね。人と人とのあいだに上下関係は極力ないほうがいいけれど、組織で仕事を円滑に行うための指揮系統は必要だと思うんです。パワーバランスを悪いふうに利用しないように、「上には強く、下には優しく」を意識したいです。
飯田:どうしよう、今日はパワーワードだらけです。
後編はこちらです。
「市民同士で対立するのではなく、社会の権力部分への要求が必要だと思う」-対談 wezzy編集長 矢田佐和子さん(後編)
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