オタクのフェミニストは多いし、エッチなフェミニストもいますよね
飯田光穂(以下、飯田):wezzyのTwitterプロフィールの文章、
「わたしたちが楽しく生きていくためにどう考え、何をすればいいのか。試行錯誤する「正解のないWEBマガジン」wezzy公式アカウントです。」この「わたしたち」いいですよね…「社会」とか「みんな」ってとらえ方もできるじゃないですか。でもそれだと一歩引いて他人事な感じがする。そうじゃなくて、「わたし」を含めた「わたしたち」。
矢田佐和子(以下、矢田):文字通り「わたしたち」すべてなんです。フェミニストとか女性とかまったく限定せず、老若男女みんなの「わたしたち」。でも、敵と味方に勝手に分類したがる人って多いな…と思います。
SNSってどうしても内輪なコミュニティが形成されてしまいがちですが、「わたしたち」が狭く限定されたものになるのは嫌なんですよね。内輪にとどまらず、外側に問題意識をきちんと届けていかなければいけないと思いながらやっています。
飯田:ネット上、とくにTwitterでは、なにかと単純化して対立させる語り口が多いと感じます。単純化すると複雑な問題をわかった気になれる。対立構造に乗るとどちらかの集団に帰属した気になれる。どちらも快感があるのかな、と。わかりたいし、安心するし。
矢田:単純化して対立させるのは、ネットやSNSに限らず昔からマスメディアの常套手段ですね。「女は」「男は」「子供は」「高齢者は」「フェミは」「オタクは」って非常に雑な括りです。市民の属性として対立しているかのように語られるけれど、オタクのフェミニストは多いし、エッチなフェミニストもいますよね。そもそもエッチは悪いことじゃない。セックスやオナニーの、なにが悪いのかと。エッチが悪いわけではなく、いつどこでも表に出してOKではないことを自覚したほうがいいし、性暴力を「これってエッチじゃん」とする認識を広めるのはNOだとわたしは考えます。女性の表象をオブジェクト化する一部のアニメ・ゲームファンをさして「オタク」と呼ぶことは多いように見受けられますが、それはいろんな「オタク」がいる中のごく一部でしかありませんから適切ではないと思います。
あと、自分と相手が「同じ言葉」を使っていても、「同じ意味」とは限らないじゃないですか。
飯田:同じ「オタク」という言葉でもイメージする集団がズレたままでは会話にならないです。「フェミニスト」もそうだし。
矢田:たとえば表現規制って「オタク VS フェミニスト」かのように語られることがあるけれど、そんなに単純化しないでほしい。まず「一律に規制しろ」と言ってるフェミニストって実際そう多くない気がするんですよね。何かを規制すれば自分も規制されるってことくらい、わかるじゃないですか。政権批判も規制されるんじゃないか?とか。
飯田:本来、表現の自由ってそういう話ですよね。検閲は絶対にしてはいけないっていう。
矢田:そうですよね。わたしも個人的な感情では、トレンドブログなんか根こそぎ表現規制されてこの世から消えればいいと思うけど、強制的な排除ってアリなのか? と考えます。自分たちもwebという同じフィールドにいるので、そこで何かを規制しようとなったら、まさに自分らも表現規制の対象になるはずですから、慎重な議論が必要です。
飯田:私は表現規制とゾーニングは別物だと考えているけれど、表現規制の一部としてゾーニングを認識している人もいるように感じます。そして、市民同士が言い争っているうちに表現の自由は確実に狭まっていく…
あいトリと地続きに日本映画は死んでいく――映画業界はなぜ立ち上がらないのか
「女たちの21世紀」No.100 【特集】暴力扇動の ダイナミズム ―「 表現の不自由展・その後」 中止事件から考える
言い訳したり反論するより、謝るほうがずっといい
矢田:少しwebの広告の話をすると、女性の表象をオブジェクト化する一部のアニメやゲームやマンガの広告、また「夫や彼氏に愛されたいから胸を大きくしたい、痩せたい、脱毛したい」的な広告、明らかに効果ないだろうと思われるインチキくさい美容系の広告、多いですよね。そしてwezzyのサイト内にも出てしまいます。
飯田:たしかにwezzyで、記事のメッセージと掲載広告の内容にズレを感じたことはあります。作っている側からしたらすごく嫌ですよね。
矢田:読者も嫌ですよね。何回削除依頼してもまた出てくるからイタチごっこなのですが、こんなに出てくるということは広告を出す側には予算があるんだろうし、つまり売れているんだろうなと思います。かといってwezzyからそうした広告が出る可能性のある枠をすべて撤去すると、収益が下がり運営が続けられなくなる。この仕事でちゃんと飯を食いたいので、ジレンマです。この「webの広告問題」は本当に深刻なので、詳しい人に話を聞きたいのですが……。
飯田:「ここから先は有料会員限定です」ではなく無料で読めるから広範に届けられる価値がある反面、当然ながら人件費や原稿料を払うためにお金を稼がないと続けられない。内容にそぐわない広告で収益をだす以外にやりかたがあればいいのですが。
矢田:でも、ちゃぶ台をひっくり返すようですが、こういう意識がwezzyのすべての記事に通底しているかと言ったらそうでもないとは思います。自分たちの価値観も徐々にアップデートしてきたものなので…。過去記事を「矛盾!」と言われても反論できませんよね。考えが変わる部分もあるし、言い訳したり反論するより「確かにそう書いてた、ごめん」と謝るほうがずっといいと思います。自分が間違っていたら謝る、誤解なら反論する、というスタンスです。
飯田:最近、秋葉原の看板撤去に関する記事で訂正を出されましたよね。
秋葉原のアダルトゲーム屋外広告はなぜ撤去されたか。“オタクの街”の在り方と行政の対応
矢田:これは本当によくなかったです。判断を誤ったな、と。
あの記事は千代田区の担当者に取材した段階で書いたものでしたが、本来であれば東京都の担当者にも取材してから記事にするべきでした。
話題の出来事に早く一石を投じたいという気持ちがあったので反省しています。
飯田:わたしもその時点で記事にしたくなってしまいそうな気がします。
矢田:その後、あらためて東京都の担当者さんに話を聞き、訂正できましたが、その方はとても協力的な姿勢を示して下さり本当にありがたかったです。
矢田:どう言葉を尽くしても伝わらないこともありますし、それは仕方がないと思っています。結局、「正しさ」の判断はそれぞれだから、人は信じたいものを信じますよね。よく勝ち負けにこだわってすぐ「論破」とかいう人もいますし、詳細がわからないのに「絶対に許せない」と断罪する人もいますが、そんな「意見」があふれる現状って、よくないなと思う。
飯田:いまちょっと、図星で動揺しました。私は断罪系のツイートしがちです…反省。
矢田:でもね、どんな話もこれに帰結するんですが、市民同士で対立するのではなく社会の権力部分への要求が必要だと思うんです。
飯田:そう思います、市民同士で争わせておけば体制側はラクですよね。現状維持ができて漁夫の利、みたいな。
矢田:正義がどうとかTwitterで争ったって、権限を持ってる人たちに影響しないですもんね。その点で、石川優実さんの #KuToo のやり方は現実的でいいな、と。
飯田:#KuToo 運動は、一貫して厚生労働省への要求ですよね。対男性や、対ヒールを履きたい人、ではない。労働時の性別による服装規定の違いはおかしい、と。
矢田:そこがいいですよね。最初にお話ししたように、今ある法律がすべてではないですし、アップデートし続けるべきだと思う。法律で許容されていることでも「それは困る、自分にとって不利益だ」ということ、山程あるじゃないですか。
飯田:ありますね。性犯罪の刑法とか、堕胎罪とか、同性婚はできないし、夫婦別姓も選べない。法律による不利益だと感じます。
フェミニズムはまだ全然届いていない
飯田:近年、東京医大や #MeToo #KuToo など次々に性差別が明るみになると同時に フェミニズムへの関心が 高まっているように感じますが、このムーブメントをどう捉えていますか。
矢田:いや、盛り上がっているのはジェンダー問題への意識が高い人たちだけではないでしょうか。フィルターバブルだしエコーチェンバーがかかっているのかなと感じます。失礼かもしれませんが、わたしは、今の日本でフェミニズムがムーブメントだとは言えないと思っています。わたしが「まだ広まってない」と思う理由は、保守的な両親や親戚、そして地元の女友達にはまったく何も届いていないからです。#MeToo も #KuToo も知らないし、性暴力の無罪判決も東京医大受験差別のことも話題にはならない。テレビニュースや新聞で少し取り上げても、興味がなければ関心を持ちませんよね。もともとの関心がない層に届いていないものを、「広まっている」とはどうしても思えないんです。
飯田:たしかに、私も同級生の女友達とは話題に上がらないです…あぁ、視野がせまかったな。
矢田:フェミニズムに関心ある人って日本に1億2000万人いるうちの何万人くらいだろう、って思いませんか。人口の半分はいるはずの女性だって、一部しか関心がないじゃないですか。「女性はみんな女性の味方でミソジニー(女性嫌悪、女性蔑視)を持っていない」ってことは全然ないですし、私もそうですがナチュラルに内面化していますよね。「フェミニストなんて大嫌い」って言う年下の女性に会ったこともあります。ただそれは「フェミニズム」の捉え方が違うからかな、とも思うんですけど。
女友達の話でいえば、日常生活に育児があることで、「父親にも家事や育児をもっとやってほしい」「保育園増やしてほしい」「旦那がモラハラっぽい」といった話はみんなの自分事です。そこからフェミニズムの話題が自然に出るくらい広がれば、ようやく「あ、ムーブメントになっているのかも」と思える気がします。
wezzyでは、東京ではないところに住んでいて、新聞や本を読まず、バラエティやドラマ、YouTubeを見ていて、ネットでワーッとなっている社会問題に興味がない、TwitterやFacebookを意見を述べ合う場所として利用していない…こういう層にまで記事を届けたいのですが…あれ?いま話してて、それ届くか?って思ってきました(苦笑)。どうやればいいんでしょうね。
飯田:私は、エンターテイメントがメッセージを届けられるのではないかと思うんですけど、いかがでしょうか。物語や作品って、射程が長いなぁと。だからこそ気をつけてほしい表現もありますが。
矢田:あっ、そうですね。テレビとかドラマとかでで少しずつ広がっていけばいい。ネットってどうしても見たい情報しか見えないし、テレビの影響力は今もとても大きいので。
「嫌韓やめよう」より「日韓断交!」のほうがウケがいい
矢田:Webって現状、ミソジニーの強い記事のほうが人気があって、お金になることは間違いないんですよ。
飯田:ミソジニー記事のみならず、歴史や国際関係でもヘイト記事は人気だし、ヘイト本も売れていますね。ダサいと思いますけど。
矢田:ダサいですよね。でも残念ながら、「嫌韓やめよう」より「日韓断交!」のほうがウケがいいんじゃないでしょうか。この現状を変えたいから地道にコツコツ記事を作っていくしかないのですが、でもまだ全然、遠くまでは届いていない。
飯田:先を行く矢田さんの、まだ全然届いてない、と、変えたいから地道に記事を作るんです、が胸に刺さる…
矢田:難しいかもしれないけれど、よその媒体ともっと連携できたらいいなって思うんです。同じように現代を思案するwebメディアは他にもいっぱいあるから、「共闘」というか「連携」したい。ライバルとかじゃないんですよ。一緒にキャンペーンしたり、マスメディアやネットインフラ的な企業に企画を持ちかけるとか。自社の利益だけを求めるならライバル視して出し抜き、蹴落とすような別々の活動が是なのでしょうけど、本当に社会を変えたいと思っているならば手を取り合ったほうがいい。だからNOISIEさんも一緒に頑張りましょう!
飯田:うれしい、頑張ります。支配したり忖度するようなパワーバランスのない状態で、自立のうえ、連携できるようになりたいです。
まとめ
ーフェミニズムはまだ全然届いていない。
でも現状を変えたいから、地道にコツコツ記事を作る。
社会を変えたいと思っているならば、手を取り合ったほうがいい。
淡々とそう語る矢田さんの言葉に、胸が熱くなったNOISIE編集部でした。