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INTERVIEW生活保護で暮らす中高年シングル女性が伝えたいこと

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2022年12月13日の毎日新聞に掲載された「中高年シングル女性 「死ぬまで働く」背景は? 調査で浮かんだ実態」は、データから中高年シングル女性の貧困をとりあげた記事でした。
そこで今回は生活保護で暮らす中高年シングル女性、二宮さん(仮名)50代にインタビューを行いました。


一人暮らしで生活保護を利用するまで

ーー二宮さんは23区内に住んでいる50代、中高年のシングル女性、ですよね。

はい、ずっと一人暮らしです。

ーーいまの生活に至るまでのお仕事歴を教えてください。

地方で大学を卒業して、2年半は正社員で働いていました。そのあとはずっと非正規です。
アパレルや福祉、相談窓口などで働いてきました。

ーー生活保護を利用することになったきっかけは

30代後半のとき、職場の施設利用者から理不尽な恫喝を受けたんです。たぶん見た目で年下の女だと判断されたからだと思うんですけど。
それでPTSDを発症してしまい、休職し、無職になりました。労災はもらえなかったけれど傷病手当が出て、そのときは遠方の親も月に15万円の仕送りをしてくれて、それで療養生活をしていました。
でも親が70代になり金銭的な余裕がなくなってきたんですよね。
親から「生活保護受けてくれない?」って言われたのが生活保護の始まりです。

ーー親に言われて、だったんですね。

生活保護制度の名前は知っていたけれど(そっか、いよいよか。)と思いました。
どこ行けばいいんだろうってパソコンで調べて、当時パソコンを持っていたのはラッキーだったと思います。情報にアクセスすることができました。
それで区役所に行きました。

ーー区役所の対応はいかがでしたか。

どんな対応をされるんだろうって思って、「相談」じゃなくて「申請」に来たって言わないと受け付けてもらえない、という話を読んだから「申請に来ました」と言いました。
でも意外にも事務的に、淡々と対応されたことを覚えています。
もっと横柄だったり断ろうとされたりするイメージがあったんですが、私の行った役所は淡々と受理されましたね。

ーーたしかに、役所で受理されるのが難しそうなイメージはあります。淡々と受理されてよかったです。

当時は扶養照会もあって(編集部注:2021年から扶養照会の運用が改善され、申請者が扶養照会を「拒否する」という意志を示すことで、実質的に扶養照会を止めることができるようになった)、親に連絡がいきました。でも、親から受けるよう言われたのでそのときは抵抗はなかったですね。

一人暮らしの生活保護だと金額はいくらもらえる?
生活保護は働きながら利用できる?

ーー療養生活のはじめは生活保護1本で暮らしていたんですか

そうです、生活保護が満額の13万数千円だったと思います(編集部注:地域による)。
でも徐々に働けるように、働きたいなって思うようになって、医師からも働いていいと言われたので、それからアパレルに非正規のパートで入りました。
パートを始めてからは賃金で14~15万円入るようになって、それに追加で1~2万円が生活保護で追加支給されて、16~17万円でした。

ーー働いていても生活保護が利用できるのですね

そうなんです、でも一定額を超えると生活保護を抜けることになります。
私はアパレルのパートで5~6年働いて、最後の数か月だけ賃金の収入総額(額面)から基礎控除額を引いた額が最低生活費を越えたので、その数か月は生活保護を抜けました。

ーー数か月ということは?

別の病気を発症して、また働けなくなってしまって。
パートを自主退職というかたちになりました。
だから数か月は生活保護を抜けたけど、また2回目の利用申請をしました。
2回目のほうが親に言いたくなかったですね。自分のせいだと思ってしまって。
親も、2回目の時のほうが扶養照会で「本当に親に余裕がないのか」の確認が厳しかったと言っていました。

ーー2回目は自分のせいだと感じてしまったのですね。

そうなんです。病気のせいとはいっても自分ではそうは思えなかった。

ーーそのあとまた別の病気がみつかるのですよね?

パートで働いていたアパレル会社がいいところで、非正規でも人間ドックを受けさせてくれていたんです。そのときに徴候が出て経過観察していたものが、パートをやめてから悪性になって発見されました。
高額な医療費がかかるので、生活保護で医療費が無料で助かりました。
またケースワーカーさんがいい人で。
1-2年単位でケースワーカーさんって変わるんですけど、その時の人は「生活保護をうまく利用して治療してくださいね」「使えるものは使ってください、何もやましいことはありません」と言ってくれて救われました。

ーーケースワーカーさんとの相性もあるんですね。

ケースワーカーさんは地域を担当して1-2年で代わっていくので、ゴリゴリの体育会系の男性だったこともあります。
しかも私の住んでいる自治体ではケースワーカーさんが休職すると代わりの人はいないんです、毎回役所に行って違う人に状況を説明しないといけない。
治療中にこれは大変でした。
役所もマンパワーが足りないんだなと思いましたね。

新型コロナウイルスの収入への影響

ーー新型コロナウイルスで生活に支障はありましたか

仕事が一つ減りました。
その時は週3で非正規の事務職、週1で非正規のNPOで相談の仕事をしていたんですけれど、事務職のほうが非正規には個人用アカウントがなくて、事務所のPCの共同アカウントからしか作業ができなかった。
当時体調が悪かったのと、持病があってコロナが流行っているからリモートワークをしたいと半年交渉したんですが、非正規には個人用アカウントが出せないからと毎日通勤していました。
正社員は個人用アカウントで仕事ができるのでほぼリモートで働いていました。正社員はオフィスに交代制で来ていて、非正規は必ず通勤していて、半年交渉しても持病を考慮してもらえず、体調も悪くなったので退職しました。

ーーでは今は相談の仕事1本になったのですね

NPOで相談を受ける仕事は在宅でできるので週3に増やしました。

ーー最初にPTSDを発症したピンクワーク(編集部注:福祉などの感情労働のこと。保育士・介護士・看護師などの制服のイメージから。)に戻ることに抵抗はなかったですか。

ハイリスクだなあと思いながら仕事してます。もう5年目になりました。
今は1日6時間、週3回はたらいて賃金が12~13万円、そこに生活保護で2~3万円追加されて、16万円いくかいかないかで生活しています。

ーー家賃や年金・公的保険・水道代・NHK、医療費の支払いがなくて手元に16万円ということですね。

はい、私の区では生活保護で家賃の補助を受けられる制限が53,000円なのでそれ以下の部屋にずっと暮らしています。

ーー生活保護って会社にバレないものなのでしょうか

転職時には言わず、聞かれることもないですが、年末調整などで人事や経理の人には知られると思います。
でもアパレルの時も事務職のときも同僚は知らない様子でした。
自分も、療養しながら生活保護をもらって働いていることに罪悪感があったので「勉強しながらだから週3なんだよね」と同僚に嘘をついていました。

ーー今はどの程度の人に生活保護を利用していることを話していますか。

いま交友関係がある人と、相談の仕事の同僚には話しています。
生活保護で暮らしていることが相談者にとって必要な情報だったりするので。
でも知り合ったばかりの人とかには言えないですね。
(言って大丈夫かな)って相手を選んで話しています。

ーー性的マイノリティのカミングアウトに少し似ていますね

そうですね。
言ったらドン引きされるんじゃないかって思うから、なかなか言えない。
だから実際には周りにいるのに、生活保護利用者は周りにいないと思っている人も多いと思う。
あと、「貧乏で清潔感がない」とか「不正受給で遊び暮らしている」とか生活保護に対するネガティブなイメージが私のなかに内面化されていて、「そう見えないように」と思って気を張ってしまうところもあります。
だから生活保護のことを言うにしても、働いてるんだけど、を強調して、「働いてるんだけど、病気の治療があるから生活保護を使ってるんだよね」と、治療に必要だから、と思われようとしてしまう。

ーー生活保護だと思われたくない、という気持ちがあるのですね

「貧乏だから遊んだらだめって思われるんでしょ?」
「つつましやかに倹約して生活してないとだめって思われるんでしょ?」
って相手の気持ちを想像してしまうんですよね。
あと「生活保護でパチンコに行く」という不正受給のイメージがあると思うんですけど、それはギャンブル依存症だと思うんです。(※監修コメント:「生活保護でパチンコに行くこと」それ自体は、不正受給ではありません。)
それなのにマスコミが人々の意識をそういうケースに注目させるから、生活保護を利用することが恥、というスティグマを植え付けている。

ろくでなしでも生活保護を利用できるべき

ーー「こうあるべき生活保護利用者のイメージ」が作られていて、それにあわせようとしてしまうってことですよね。

前にケースワーカーさんが「二宮さんは頑張ってるんだから生活保護使っていいんですよ」って言い方をしてくれて、それは確かにありがたかったんですけど、個人的には頑張ってなくてもお金に困っているなら使っていい制度だと思うんですよね。
ときどきマスコミで生活保護バッシングをされるけれど、単に普通に働いている人の賃金が少ないストレスのはけ口にされていると思う。
額面の月給が20万円だと手取りは約16万、そこから家賃や水道代、NHKを払ったら手元に残るお金は生活保護のほうが多くなることもある。
憲法による「健康で文化的な最低限度の生活」の保障として制度が作られている生活保護よりも、週5日フルタイムで働くほうが手取りが少ないのは、生活保護が高いのではなく、賃金が低いのが問題です。
政治家は増税だとか予算が何兆だとか平気で言うけれど、市民の賃金を分かっているのでしょうか。そういう苦しさや働いても楽にならないギスギスした暮らしの鬱憤が、生活保護を利用している弱者に向けられる。

ーーおっしゃる通りで、苦しい人同士で鬱憤をぶつけさせられているけれど、現状をつくっている政治に問題がありますね

それから日本は一度失敗したら元のレールに戻るのがすごく難しい。
一度正社員じゃなくなってから、約30年ずっと非正規で働いています。
これも「失敗してはいけない」「しんどいって言えない」空気を作っていると思う。

ーーたしかに、しんどいと言って受診して、じゃあ少し休もうかと医師に言われ、休職したらそのまま肩たたきされて自己都合退職になるケースはいろんな人から聞いています。

「頑張ってるから」「病気の治療をしているから」、そんな理由がない、どんなろくでなしの人間でも、生きてるだけで最低限度の生活は保障されるべきだと思います。
申請しないと生活保護を利用できないシステムにも問題があります。本当にパワーがない時はアクセスできない。どうしたらいいかわからない。
不正受給はほんの少しなのに過剰にバッシングされるけれど、受給すべきなのにもらえていない・アクセスできていない人のほうが断然多いと思う。
バッシングを内面化してしまうから、税金のお世話になったらいけない、困っても自力で・家族で助け合って解決しなければいけない、という思考になってしまう。

家族主義へのレジスタンス

ーー憲法が自民党案で改正されたら「家族は互いに助け合わなければならない」になりますよね。

家族への理想?幻想?を押し付けないでほしい。
家族に良いイメージを持ちすぎだと思います。

ーー家族から逃げるために生活保護を利用したほうがいいケースもありますよね。

この国の家族主義というか家族第一みたいな雰囲気がすごく嫌で、特に年末年始はそれを意識させられますよね。
私は一人暮らしで遠方の実家にも長いこと行っていません。
だからここ数年は「お正月ムード」に負けないように、「正月は朝からトーストを食べて報告しあう」っていうのを友人とやっています。同じような思いの友人とのやり取りは安心しますし、楽しいです。

インタビュー後記

「どんなろくでなしの人間でも、生きてるだけで最低限度の生活は保障されるべきだと思います。」という力強い言葉に深く納得するインタビューでした。
また苦しい人が苦しい人を叩いて憂さ晴らしをすることで、生活を苦しくさせている政治に目がいかなくなる、という、構造を透明化させる罠にひっかかるまい、と思いも強くなりました。

そもそも週5日8時間働ける標準労働者モデルでも生活にゆとりのない人が多いのに、病気になるなど標準労働者モデルから外れると一気に貧困へ陥ってしまう社会、それを自己責任だと言われる風潮では、誰もが緊張しながら働かないといけません。

安定した家族の存在を前提にした標準家族でない暮らし方では更にその外圧が強まります。
「正月の朝にトーストを焼いて食べる」話は、ささやかなようで確固とした、家族主義への抵抗だと思いました。

監修・堅田香緒里

静岡県生まれ。東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程修了。博士(社会福祉学)。
現在、法政大学社会学部教員。専門は社会福祉学、福祉社会学、社会政策。
主な論文・著書に、エノ・シュミット/山森亮/堅田香緒里/山口純『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』(光文社新書、2018年)、「対貧困政策の新自由主義的再編:再生産領域における『自立支援』の諸相」(『経済社会とジェンダー』第2巻、2017年)、堅田香緒里/白崎朝子/野村史子/屋嘉比ふみ子『ベーシックインカムとジェンダー』(現代書館、2011年)、『生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義』(タバブックス、2021年)など。

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