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ARTICLESわたしがわたしのために選ぶ下着|石川優実 連載Vol.1

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私は下着がすごく好きだ。
なんで好きかって、単純に心がときめくのだ。
多分それは、インスタでおしゃれな人たちが「#OOTD」とハッシュタグをつけて今日の洋服のコーディネートを載せる、そんな感覚と遠くない気がする。

ランジェリーショップは宝石箱のように思える。いろんな色やいろんな素材やいろんな形の下着がたくさん並んでいる。
それらを見ている時、「今度彼と会うときにこれを着てみようかな」「この下着で撮影したらいい写真が撮れるかな」「この下着は着心地が良さそうだから仕事の時に使いたいな」など、様々なシーンに思いを巡らせている。
あ、「女友達とスーパー銭湯に行くときに着てたら可愛いって言ってもらえるかな」とかも。

グラビアの仕事をしている時も、水着より下着の写真を撮られる方が好きだった。
多分、海でもない場所で水着を着ることに違和感があったのだと思う。グラビアという、男性のために自分の個の部分は極力消して写真を撮られなくてはいけない中での抵抗や、極力うそを少なくしたい気持ちのあわられでもあった。
石川優実フェミニストルッキズムNOISIEノイジー
私は洋服よりも、下着の方が興味がある。
洋服を着た自分よりも下着姿の自分に魅力を感じるし、単純にそちらの方が好きだ。
それだけのことなのに、今の日本で洋服のように気軽に自分のお気に入りの下着を身につけた写真を、例えば「#IOTD(inner of the day)」とハッシュタグをつけてインスタやツイッターに投稿したら、「抜けない」「抜ける」「だらしない体」だとか、「フェミニストなのに性的な写真を載せるんですか?」などといった、てんで的外れなリプライがたくさんくるのだろう。というか、実際に私宛にきている。

なぜか今の日本の社会には、「女性の下着や下着姿、女性の体」は「男性のためにある」と思い込んでいる人が溢れている。
それは、先ほど紹介した私宛の的外れなリプライや、街にある下着の広告を見て「あんなエロいものを公共の場に出すのはいいんですか?」という問い、昨年12月に勝訴した伊藤詩織さんに対して「派手な下着を着ていたのだから(性行為を)やる気だったのでしょう」というセカンドレイプから、よく感じることだ。

だけど先ほども言ったように、私はただ下着が好きだ。
そして自分がどのような気持ちでどのような下着を着るか、それは私だけが決められること。

私は私の気分をあげるためにセクシーな下着を着ける日もあるし、私がセックスをしたい相手とのセックスを盛り上げるために選んだ下着を着ける日もある。
写真に撮ってSNSに投稿しても男に抜いてほしいと思っているわけではないし、セクハラなんて受けたい訳が無い。私が写真を載せるのは私の体を使って表現をしたいだけであって、侮辱したり下に見てもいいよ、私の持っている体についてどんなひどい言葉を投げつけてもいいよ、という合図ではない。
私の体を勝手にごちゃごちゃとジャッジするのはやめていただきたい。
石川優実フェミニストルッキズム NOISIEノイジー
NOISIEで連載をさせてもらえることになった。
下着とルッキズムやフェミニズム。
色んな方向から語ることのできるテーマだと思う。
性的同意、ボディポジティブ、男性が決めるわけではない私の性欲、他人が決めるわけではない私の体の価値、男性のためではない私が着たい下着。

自分の体は自分のものだと再認識したい。

どんな体をしていようと、好きな格好をして写真に表現する権利がある。
どんな容姿をしていようと、見た目をひどい言葉で中傷されるいわれはない。
ネット上には、批判のフリをした誹謗中傷や、人を傷つけようとして発せられる言葉が多すぎるのだ。
この顔や体質や体の作り、私が私で生まれて来たことに理由なんてない。
私がたまたま私で生まれてきたからこの顔をしているし、この体質だからこの体型になるだけで、なにも悪いことではないはずだ。それなのにこの社会は、私が何者かになる努力をしなければいけないような圧力に溢れている。私はただここに生まれてきただけなのに、常に、そのままではいけないと罪を負わされたような感覚に取り囲まれる。
石川優実フェミニストルッキズム NOISIEノイジー
かわいい下着をかわいいと思って身に着けていたらセクハラやレイプをされても仕方ない、なんて思わない自分になりたいし、被害者にそんな言葉を無責任に投げつける社会を変えたい。

私は、私がセックスしたい人とのセックスを盛り上げるためだったり、そうでなくても自分のために、素敵な下着を身につけたい。
私がセックスをしたくない人とのセックスを『したかったことにされる』ために素敵な下着を身につけているわけではない、と主張したい。
「こんな写真を載せたら誘ってるんだろうって言われちゃうからやめた方がいいかな」という不安で、下着姿の写真の投稿を制限したくない。

この連載では、私が私のためにそのとき身につけたい下着を、撮ってもらいたいように写真におさめてもらおうと思う。
記念すべき第一回は、Tiger Lily Tokyoのランジェリー。
[Mon bebe Lily]Julie ジュリー ソフトブラ&ショーツ / ネイビー


Tiger Lily Tokyoさんは、私が思っていたことをまさにやってくれていた。
モデルさんも色んな体型の人がいる。
一番魅力的なのは、つけ心地の苦しくないノンワイヤーブラジャーが充実していて、胸を盛らなくてもいいところ。
私は私のおっぱいのままでよかった。盛りたいなんて思っていなかった。

「何を身につけている時に自分は居心地が良いか」。
ヒールのあるパンプスと同様に、「当たり前とされるもの」を当たり前のように身につけるとき、もう少し自分の心の声に耳を傾けたい。
モヤモヤする気持ちや、ましてや「圧迫されて苦しい」、「怪我をして痛い」など体を傷つけることが起きているならば、自分で自分を救うために、選ぶものを変えても良いのでは、と思う。もちろん、それでも着用したいならば着用すれば良い。
わたしがわたしのために選ぶ下着 石川優実 NOISIEノイジー
実はこの撮影をするにあたって、私は無意識にダイエットをしてしまった。(結果は別として・・・)
編集長の光穂ちゃんとカメラマンの宮本さんと、「自分の体の嫌いな部分、下っ腹のぷよぷよとか、写真に映ると消されてしまうような線とかシワとか、そういうものを写したい」というテーマを決めたにも関わらず。
撮影中も、プヨっと出た下っ腹を撮りたいにも関わらず、無意識にお腹に力が入ってしまう。まだまだ私は私の嫌いな部分を好きになる勇気が出し切れないようだ。

私はこの連載を通して、多くの見知らぬ人や自分自身から侮辱された自分の体を、もう一度好きになりたい。
そしてそれが、同じような悩みをもつ人にとって、少しでも助けになればとてもしあわせ。

編集部注:
記事内にリンクがありますが、広告記事ではなく石川さんが愛用する私物の紹介です。

「#KuToo(クートゥー)――靴から考える本気のフェミニズム」現代書館WEBサイトはこちら

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1987年生まれ、愛知県出身。グラビア女優・ライター・フェミニスト。2005年に芸能界入り。 2017年末に芸能界で経験した性暴力を#MeTooし、話題に。それ以降ジェンダー平等を目指し活動。2019年、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けることは性差別であるとし、「#KuToo」運動を展開。厚生労働省へ署名を提出し、世界中のニュースで取り上げられる。 2019年10月、英BBCが選ぶ世界の人々に影響を与えた「100 Women」に選出。2019年11月に初の著書「#KuTooーー靴から考える本気のフェミニズム(現代書館)」を出版。「2019年新語・流行語大賞トップ10」に#KuTooがノミネート。http://lheurebleue.jp/ YOUTUBEチャンネル:石川優実フェミニズムエンカレッジ

写真 : 宮本 七生

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1986年生。
東京近郊を中心にスチール撮影をしております。
http://miyamotonanami-view.com/

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