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ARTICLES私も「選ぶ立場」になったとき。|石川優実 連載Vol.3

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年が明けてしばらくしてstayhomeを堪能し、私の体重はこの5ヶ月の間に3キロ太ってしまった。
「しまった」と書いているあたり、私はまだまだ「太る」=「悪いこと」、という固定観念から抜けられないらしい。
頑張って、そんなふうに言わないようにしよう。言葉には魂がこもっているから。

この5ヶ月の間に3キロ太ることができました!いえーい!
うん、これだけで全然気持ちが違います。

なぜ私は太ることが悪いことだと思うようになったのだろう。
その疑問を解決してくれるのが、文化人類学者である磯野真穂さんの「ダイエット幻想 やせること、愛されること」である。

前回前々回の記事に掲載されている下着の写真を撮ったときに、NOISIE編集長の飯田光穂さんが面白い本を何冊か小道具として用意してくださった。その中の一冊だ。

この本は文化人類学者の視点から、やせたいと思うことと社会的な価値観の関係や、他民族との違い、他者からの評価についてなどが書かれている。

この記事を読んでくださっているあなたがもしダイエットしているとして、それはやせたいと思っているからしていますか?
それとも、やせたいと「思わされているから」していますか?

私は間違いなく後者。世の中に「やせていることが素晴らしい」という価値観がなかったら、自分の食べるものをこんなに制限したくないし、多めに食べてしまった夜や次の日の朝に自分を責めることもなかったと思う。

私は、10年前くらいからずっとダイエットしているように思う。
23歳のころに吸っていたタバコをやめて、それまで増えたことのない体重が最終的に5キロほど増えた。
私はその時にグラビアの仕事をしていたので、ネット上も含めたくさん責められた。

しばらくして自然と体重は元に戻ったのだけど、太った時にあまりにも多くの人に自己管理がなっていないと言われ続けた。
それ以降何を食べる時も怖いし、朝起きたらお腹がどれくらい出ているかまず触るし、毎日体重を計らないと不安で仕方ない日々を送っている。

だけど、太っていた時期の私はめちゃくちゃ頑張って走ったりしていたし、食べ物も制限していたし、元の体重に戻った時は運動なんてしていなくて、食べたいものも食べていた。
太った時に私の体型を批判する人は皆、私が運動していないような前提で説教をしてきたし、私が何を食べているか知らないのに食べ過ぎだと言ってきた。

そう、他者はだいぶ適当に私を評価するし批判するのだ。
にも関わらず、私はその一言にずっと苦しめられていて、今も安心してご飯を食べることができない。
これが、他人の容姿について気軽に口にするべきでない理由だと思う。
適当な一言でその人は一生しんどい思いをして生きていかなければいけなくなる可能性があるからだ。
私はとてもじゃないけれどそんな責任はとれない。
石川優実NOISIEノイジー

磯野さんは本の中で、「選ばれる」ということについて言及している。
「愛されメイク」など、世の中には女性が選ばれる前提の話がとても多い。
はっとした。男女は対等なはずなのに、なぜ私は「選んでもらわなきゃ」と思っていたのだろう。
なぜ、私が選ぶ側だとは1ミリも思わなかったのだろう。
対等であれば、お互いに選び合うものではないのか。向こうも選ぶかもしれないが私だって選ぶ権利がある。
それなのに選ばれるために頑張らなきゃと思っていたのは、きっとメディアの「愛される女になれ」という刷り込みも大きいのだろう。

私も「選ぶ立場」になったとき。
それを考えたときに、こんなに辛さや苦しさを伴うダイエットが本当に必要か、よくわからなくなった。
できることならば、もうダイエットなんてしたくない。

石川優実NOISIEノイジー

本の中にプラスサイズモデルとして活躍する吉野なおさんの経験が書かれている。
吉野さんは摂食障害の時期があったそうだが、その時に食べたいと思ったものを食べる努力を始め、回復に向かったそう。
この話を読んだ時に、私に足りていない覚悟はこれだ、と思った。
私は私が喜ぶ食べ物を私に食べさせてあげるという努力が全くできていなかった。
他者から見られる自分ばかりを気にして、一番大切な「私が何を食べたいか」を蔑ろにしていた。これじゃあ私が苦しくて当然だ。
私だって好きなものを好きな時に好きなだけ食べたいよ!!

最近、久しぶりにパートナーと呼べる人ができた。
無条件に私のことを可愛いと言ってくれて、私はこんなに愛してもらったことが今までなかったかもしれないとまで思っている。
その人に出会ってから、体重が増えた。
どんどん増えていく体重に絶望していたのだけれど、よく考えたらこちらが私の適正体重なのかもしれない。だって今の方が幸せだし。
今までずっと痩せていないと愛されないと思い込んできたのにな。
とても温かい時間を過ごしながら関係を築いていく中で、「別に体型で評価されなくてもいいか」と自然に思うようになり、そうしたら想定外にこの身体が可愛い、と言われるようになった。
そんな革命的なことが起こっている。なんというラッキー!

石川優実NOISIEノイジー
幸せな状態の自分の身体の写真を残しておきたくて、パートナーに撮影をお願いした。

この日に着けたのはNY生まれのランジェリーHankyPanky
Color Play Padded Bralette Periwinkle/White XS(カラープレイ パッド ブラレット ペリウィンクル/ホワイト)と、Color Play Low Rise Thong White/Periwinkle XS(カラープレイ ローライズタンガ ホワイト/ペリウィンクル)だ。

レースが柔らかくて着け心地最高。
ブラはノンワイヤー、タンガはTバックにありがちな食い込みの気持ち悪さが全然ない。さらにこの可愛さ。最強の私の出来上がりだ!

男性向けのグラビアをしていた時とは全然違う、あの時より太って、歳も重ねて、社会的に美しいと言われる容姿とは程遠くなっているけれども、どう頑張ってみても今の方が幸せそうに見えるし実際幸せだ。

よし。頑張って、私の好きなものを私に食べさせてあげよう。
そして、私がハッピーになれるランジェリーを着けてあげよう。

こわい。
このまま社会的に美しくないとされる身体になっていってしまわないか、とてもこわい。
石川優実NOISIEノイジー
だけどそれよりも、自分を一番に考えなければ、私を幸せにしてあげられない気がする気がするから、やっぱり覚悟を決めてちゃんと食べるのだ。

NOISIEノイジー

編集部注:
記事内にリンクがありますが、広告記事ではなく石川さんが愛用する私物の紹介です。

「#KuToo(クートゥー)――靴から考える本気のフェミニズム」現代書館WEBサイトはこちら

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1987年生まれ、愛知県出身。グラビア女優・ライター・フェミニスト。2005年に芸能界入り。 2017年末に芸能界で経験した性暴力を#MeTooし、話題に。それ以降ジェンダー平等を目指し活動。2019年、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けることは性差別であるとし、「#KuToo」運動を展開。厚生労働省へ署名を提出し、世界中のニュースで取り上げられる。 2019年10月、英BBCが選ぶ世界の人々に影響を与えた「100 Women」に選出。2019年11月に初の著書「#KuTooーー靴から考える本気のフェミニズム(現代書館)」を出版。「2019年新語・流行語大賞トップ10」に#KuTooがノミネート。http://lheurebleue.jp/ YOUTUBEチャンネル:石川優実フェミニズムエンカレッジ

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