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ARTICLES私にできることはまだある。『世界の半分、女子アクティビストになる』で今日から踏み出す活動家の第一歩

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コロナ、長梅雨、都知事選……私にできることはまだあるかい?

オリンピックが始まるはずだった連休はずっと雨で、コロナウイルスの感染者数は相変わらず連日3桁の数が報じられ、どこかへGo Toしていいのかしてはいけないのか国と都がそれぞれに反対のことを言って、なにがなんだかよくわからないうちにミンミンゼミが窓の外で鳴き始めたのを聞きながら、結局ずっと家にいた。

このところずっと「全部丸投げされている」と感じる。
Go Toするのかしないのか、リスクのある行動をとるのか取らないか、病気になるか予防するか、生きるか死ぬか。
自己責任でどうぞ、自分で調べて自分で決めて、困ったら自分でなんとかして、あとは知らんけど。と言われている気がして、東京でどっこいたくましく生きてきた自負のある単身会社員の私も、さすがに不安で足元が揺らぐ。
今まで納めてきた税金は、こういうときにみんなが困らないために使われるはずのお金は、一体どこへ行ってしまったのか。
その秘密を探るために我々はアマゾンの奥地へと向かいたいところだが、今は渡航が難しい。

「現職の圧倒的有利」と言われた都知事選は、結局候補者のテレビ討論会も開かれないまま案の定現職の続投で終わって、私が応援していた候補が都知事になることはなかった。
いつもTwitterで見ているタイムラインは「投票率200%」かと思うくらいみんな政治に熱心だけれど、実際の投票率を見て唖然とする。自分の見ている世界なんて小さな村みたいなもので、そこが世界の中である程度の広さをもつ場所だと心のどこかで思っていたのはなんて傲慢なんだと恥じると同時に、「世の中を変える」なんてマジで無理なんじゃないかと絶望する。

私にできることはまだあるかい? の問いに、「ある」と即答できなくなっていく。
長い梅雨は一向に明けず、心までじめじめしてくる。止まない雨はないかもしれないが、その前にメンタルがどうにかなりそうだし、雨が止むまでに生活の術を絶たれてしまった人たちをどうしてくれるんだよと思った。

じめじめマインドを明るく照らす希望の書『世界の半分、女子アクティビストになる』

どこへも行けない生活が続いて、代わりに積ん読していた本を開く時間が増えた。
『世界の半分、女子アクティビストになる』もそのうちの一冊で、ワンルームの片隅でじめじめと絶望していた私に一筋の光を与えてくれた。
開くと、カバーにはこう書かれている。

 

「この本は女子のための本。言いたいことがある女子、堂々と生きたい女子、不平等にうんざりしている女子、すべての女子のための本。
(中略)
ほら、こわがらずに、すこしずつ、やってみて。世界の半分は女子。女子たちが勇気をもって声をあげれば、すべての人が活躍できる社会に変わるはず。世界は女子が変えると心の底から信じている!」

じめじめマインドに陥っていた私には眩しすぎる言葉の数々が並ぶ。眩しさに目を細めながら、忘れたくない言葉を見つけたページにたくさん折り目をつけながら、時に涙しながら読んだ。本に折り目をつけるのはあんまり良くないと教わったけれど、そうせずにいられなかった。

この本は8章に分かれている。

第1章「女子の抵抗力をパワーアップ」では、さまざまな権力や特権のこと、そしてそれにどう「反撃」するかのアイデアが書かれていて、第2〜6章ではより具体的な「反撃」のための方法が事細かに指南されている。
それは運動プランの戦略の立て方から始まり、オンラインの署名活動のやり方、認知度を高める・説得する・動員するためのそれぞれのメッセージングのしかた、インタビューを受ける時のポイント、資金集めのアイデア、帳簿の付け方、支援者やボランティアにとってどのようなリーダーであるべきか……
などなど、社会運動を起こしたいアクティビストの卵に向けたガイドブックであるとともに、「リーダー育成の書」として読むこともできる。

特に胸を打たれたのは、随所にある「自分も特権を持っていないか?」「自分も知らないうちに誰かを排除していないか?」「自分の持っている偏見を自覚しているか?」という注意深い眼差しである。

例えばデモを組織するときは「社会的に立場が弱く直接影響を受ける人たちを必ず仲間に入れる。その人たちを差し置いて代弁するのではなく、その人たちと一緒にデモを組織して、彼らの希望に合わせてあなたの戦術を使う(p81)」とある。
また運動のメンバーを集めるときは車椅子や長時間立っていられない人でも過ごしやすい場所を選び、ブレストは「マイクは一本:話をするのは一人だけ。誰かが話している最中に、割り込んだり、関係のない雑談をしたりしない」「偏見を自覚する:外見、発言内容、ふるまいに基づくステレオタイプで他人を判断しない」「注意を素直に受け止める:誰かの言葉が人を不快にさせたり不適切だったりしたら、やんわりと注意や訂正をして、それを素直に受け入れてもらう」などの“標準ルール”(p195)に従って行うよう書かれている。

この「人は誰しも間違いを犯すから注意していこうね、そして間違えたら謝って改めればいいんだよ」という一貫した視点は、運動がひとりよがりにならないか、本当に支援したい人のためになっているかをチェックできるだけでなく、日常生活でも自分がそうできているかを省みるのに役立つ。

この国で政治をする人たちが、ほんの少しでもこれらの視点を持って日々活動してくれていたらどんなに心強いだろう。
しかし現実はそうではないので、自分たちで声を上げていくしかない。

今日から踏み出せる「アクティビスト」の第一歩

とはいえ「アクティビストになる」のはいきなりだとハードルが高いと感じるかもしれない。私だってそうだ。

そんな人は第7章「声をあげる、支持する」を読むのをおすすめする。
ここでは「特権チェックリスト(p229)」で自分にはどのような特権があり、他の人がいかに抑圧されているかを知ることができる。チェックリストにある項目は例えば「じろじろ見られずに公衆トイレを利用できる」「ほとんどの有名店で、自分の身体に合う服が見つかる」「大学に進学する予定で、学費の一部、または全額を親が出してくれる」などがある。これらを見れば、「特権を持つものはそれが特権だとすら気づかない」ことに気づけるだろう。

そのうえで、「社会的弱者への支援(アライシップ)をする5ヵ条(p231)」や「悪意なき差別(マイクロアグレッション)をなくすための戦術(p233)」は誰でも今日から実践できることだ。
誰かがいじめられたり嫌がらせを受けているのを見たら必ず何か言う(加害者を無視して被害者に直接「大丈夫か」と語りかける「第三者介入」というナイスな技)、自分と異なるアイデンティティーの人の経験を知りたいなら、その人たちに直接聞いて多大な説明の時間を割かせるのではなく自分で調べてみる、日常の会話の中で悪意なき差別(例えば女性はこうだと決めつける言葉や身体的特徴についての差別的な言葉)を耳にしたら「わからない。どういう意味?」と相手が降参するまで尋ねる、など。
今までなんとなく流してしまっていた言葉や見過ごしてしまっていたシーンでこれらのことを実践してみるだけで、アクティビストへの立派な第一歩になるだろう。私もやってみようと思う。

そして大切なのが「あなたが指摘されたらどうするか(p236)」。ここでは「あなたの気持ちを傷つけたとしたら申し訳ない……」なんて曖昧で自己弁護的な言い方で逃れることはNGであり、きちんと相手に耳を傾けて言い訳をせずに謝り、間違いから学んで改めるための方法が書かれている。

「不快な思いをさせたとしたら謝罪します」なんて心にもない謝罪の言葉は聞き飽きてしまった私たちであるが、自分が誰かを傷つけることだって絶対にあるし、間違いなく誰かを傷つけて生きてきたのも本当だ。

正しい謝り方を知っておけばこそ、勇気を持ってアクションができる。私は「不快な思いをさせたとしたら謝罪します」なんてだっせえセリフは絶対言わないぞ、と心に誓った。

私たちがよくする。どんなに世界がクソであろうとも

最後の第8章はアクティビストのためのセルフケア方法が書かれている。社会の問題に真剣に向き合えば時に心が疲れてしまうのは当然だ。誰かを助けるための「自分を助ける方法」もセットで教えてくれる本書、完璧なラインナップである。
ここで紹介されているセルフケアのアイデアリストは、コロナや政治不信でじめじめマインドになってしまっている人、働きすぎで限界を迎えている人にもそのままおすすめできる、お金がかからなくてすぐできるものばかり。
実践すればきっと少しだけ心が楽になるし、自分を楽にすることを自分に許してあげて欲しいと思う。今この国では多くの人にとって、生きているだけでストレスフルなのだから。

この本を読み終わる頃、ページの上端は折り目だらけになっていて、少し泣いたらじめじめマインドもちょっとだけスッキリしていた。
現状は何も変わっていないのだけれど、この世界で生きているのだから、生きる環境を少しでもマシにするためには行動しなければならない。疲れたら少し休んで、またできることからやったらいい。
そういう行動の連鎖がこの世界を少しずつマシな方に変えてきたのは歴史が証明する紛れもない事実だ。だったら私は少しでも行動する側でいたい。

最後に、この本の中で一番元気が出た一文をp40から引用して終わろうと思う。

 

「私たちは、楽天家でもある。いつかはよくなると信じている。生きていればいつか! どうすればよくなる? 私たちがよくする。」
 

「世界の半分、女子アクティビストになる」晶文社WEBサイトはこちら

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愉快なアラサ〜会社員。新卒でITメガベンチャーに入社後、編集っぽいことやテレビっぽいことをやったのちに転職したり副業でコラムを書いたりして暮らしています。オタクです。みなさんご自愛ください。 Twitter:https://twitter.com/olunnun note:https://note.com/getsumen

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